白き魔女の正体は世界樹に連なる神の眷属。
その一人である竜が人に化けたものだった。
その姿に恐れおののく冒険者達は討伐すべきか、話を信じるべきか揺れ動く。
黒と白。
ふたつの間で・・・
元凶
白き魔女に化けていた竜の言うことを信じることに決めた冒険者達。
その胸に熱き思いを秘め、再び例の洞くつへと向かうのだった。
貴方たち、おかえりなさい。
どうだったかしら?
何か収穫はあって?
送り出した時同様に飄々と冒険者達を出迎える黒の魔女。
しかし、冒険者達は聞く耳を持っていなかった。
*やいやい、よくも騙しやがったな!
*俺たちを利用しようとしやがって!
*お前の企みはすべてわかっているんだ!!
思いを吐き出す。
強い言葉に乗せて。
黒の魔女こそが奇病の元凶であること、白き魔女は魔物なんかではないということ、すべてをぶつける。
あら、残念。
うまくいかなかったみたいね。
白き魔女を倒してくれるかと思ったのに♪
でも、何も変わらないわ。
あの魔女の姿を借りた竜はじきに寿命よ。
そして、貴方たちはここで消える。
私の計画には何も支障はないのよ。
黒い魔女は冥途の土産とばかりに語りはじめる。
彼女の狙いとは奇病を流行させることで人の姿を変化させ、生気も自我もなくしてしまう。
そんな魂の抜け殻のような者たちを沢山生み出し、それを自らの忠実なしもべとなる骸骨兵士に作り替え、手始めにこの地域一帯を支配するつもりだったのだ。
通常、どれい兵士やくさった死体をはじめとするアンデッドモンスター達は寿命が尽きた人間や動物、魔物達の死体を使って製造される。
しかし、この魔女が言うには【生きた者】をそのまま材料として製造する場合、死体を元にした個体よりも遥かに強力なアンデッドモンスターが誕生するというのだ。
どこまでも卑劣なやり口に冒険者達の怒りは頂点に達する。
*ふざけるな! そんなことが許されてたまるか、今すぐ貴様に引導を渡してやる!
*よくもペラペラと全てを語ったもんだ。そうやって自分の手口をバラすやつは必ず負けるって相場が決まってるんだよ!
随分と強気じゃない?
貴方たち程度の冒険者に何ができるっていうのかしら。
でも、その無謀さは嫌いじゃないわ。
ご褒美に…貴方たちも私のしもべに変えてあげる!!
お互いの言葉が交錯する。
瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。
冒険者達も名の知れた英雄ではないが、そこそこに腕の立つ者たち。
しかし、相手は神の眷属を相手にしても恐れもしない魔女。
その実力は底知れない。
状態異常呪文などの搦手を中心に狡猾な戦術で攻めてくる黒の魔女を相手にした戦いは熾烈を極めた。
そんな戦いの末に冒険者達は立っていた。
満身創痍。
その言葉がぴったりの状態ではあったが、恐るべき野望を持った魔女を打ち倒したのだ。
いかに強力な相手であろうと、人数は冒険者達が上、そこに勝敗の分け目は存在したのだ。
*さあ、村へと帰ろう。
その言葉だけ…冒険者達の口からは漏れた。
戦いの疲労からか壮絶な戦いを終えた余韻からか…村への道中は誰一人として口を開かなかった。
すべては日常へ…
山間の村落へと戻った冒険者達は最初に訪れた時と同じく、宿の主人に事の次第を告げた。
一行から、白き魔女の正体や上流の洞くつに住んでいた黒の魔女の話、そして病気の原因、戦いのこと等々…
これまでにあったことを聞かされた主人は大層驚きつつも、諸手を挙げて喜んだ。
それは当然である。
原因不明の奇病にもう怯えることはないのだから。
既に命を落としてしまった者たちは帰ってこないけども、村は救われたのである。
はぁ…そったらことがあっただなあ。
あんたらが帰ってくるよりもしばらく前、白き魔女が現れてよ、これが最後の薬だって沢山の薬を置いていっただよ。
その時、もう病気は大丈夫と言ってただが、そういうことだっただな。
その正体が竜神様の使いだっていう魔女もだが、あんたらはこの村の英雄だべ!
大したもてなしもできねだが、今夜はゆっくりしていってくんろ!!
ん?白き魔女はどうしたって?
あんたらが帰ってくるよりも前に帰って行っただよ。
冒険者達は一目会っておきたかった。
きっと役目を終えたあの魔女、いや竜は世界樹の元へと帰るだろう。
そして疲れた体を癒すに違いない。
人間にも愚かな者は沢山いる。
その人間たちのために命を削った竜に一言お礼を言いたかった。
冒険者達は村落の人々に囲まれ、料理と酒を楽しみ、ひとつの大きなことを成し遂げながらも、どこか切ない気持ちを抱え眠りへとつくのだった。
冒険者達が今回の事件で学んだことがある。
魔物だから、人間だから…と見た目で善悪まで判断してはいけない…ということだ。
【真実を映し出す鏡】そのような道具が手にあったとしても…判断するのは自分自身なのだ。
その鏡については、こんなものは自分たちの手に余ると冒険者達の手によってドルワームの研究室に寄贈されたともヴェリナードの調査団に寄贈されたとも言われているが本当の行方は誰も知らない。
そして後日…
エゼソル峡谷の例の小屋付近の谷間で背中に大きな枯れ木が生えた竜の死骸が見つかったという。
その竜の死骸は次第に無数の光へと姿を変え、その光の群れは遠く…エルトナ大陸の方角へと飛び去ったと言われている。
あとにはたった一枚…まだ緑に輝く葉っぱが残されていた。
アストルティア異聞録「魔女・ふたり・・・」
~了~