鏡の力
黒の魔女から【ラーの鏡】を借り受けた冒険者達。
まずはコイツが怪しいとその場でこっそりと魔女を映してみるものの…
鏡の中の姿は変わった様子を見せない。
そこで黒の魔女は少なくとも魔物などではないと思い、単純に信じ込んでしまったようだ。
しかし、この鏡自体の力が本物なのかどうか…疑念が残る。
そこで冒険者が取った行動とは…
そう、村落の周辺を闊歩している元は人であったという奇病にかかった患者の【なれはて】
この【なれはて】に対して鏡の力を使ってみることにしたのだ。
魔物のように見えるが、もはや自我すら持たずただ徘徊するだけの連中。
近づくのに危険はない。
病気に感染することがあっても薬がある。
ただ、今の彼らはその薬について信用をしていない状況にはなっていたのだが…
想定通り、近づいても【なれはて】は攻撃をしてこない。
それどころか、こちらを認識すらしていないようだ…
早速、例の鏡を向け中を覗き込んでみると…そこにはやつれ果てた一人のドワーフ族の男が映し出されていた。
【ラーの鏡】が出てくるおとぎ話のいくつかでは鏡の力で元の姿に戻る場面も見られたが、この鏡にはその力はないらしい。
もっとも、その力があるのならとっくに黒の魔女がこの病気のことも解決してただろうと考えるので冒険者達は特に意には介さなかったわけだが。
*この鏡は本物みたいだな!
*本当に…まものじゃなかったなんて…
*これが本物なら次は…あそこに行くしかないね。
何か確信を持てたかのように冒険者達は口々に言葉を発する。
そう、次に向かおうとしたのはあの小屋だ。
この時、冒険者達は白き魔女こそが奇病の元凶であると思っていたのだ。
白き魔女の正体
お帰りなさい。
村落に薬を届けたくれたのね?
ありがとう、これでまた少しは病気が抑えられるでしょう。
一行は薬を届けてきたことを報告しにきたという口実で再び白き魔女の住む小屋へとやってきた。
目的はただひとつ。
この魔女の正体を知るため。
*あの村の側の洞くつでね…別の魔女に会ったんだ。貴女は何か知らない?
他愛のない会話をする中で一人、こんなことを切り出した。
すると魔女は少し間をおいて…
その存在は知っているわ。
でも、面識はないの。ごめんね。
黒の魔女に白き魔女のことを尋ねた時と似た感触を覚える。
こう、真実を隠されたようなごまかされたような答えだ。
そんな会話の中でエルフの男はオーガの巨体に身を隠しながらこっそりとラーの鏡を白き魔女へと向けてみた。
そこに映し出された姿は…
なんと、巨大なドラゴンの姿だった…
(騙されていた)
(やはり、こいつが元凶…)
様々な思いが冒険者の頭をめぐる。
しかし、この姿に思い当たる者がいた。
(こいつは…フォレストドラゴに似ている。)
その種のドラゴンは背中に大きな樹を生やし、その葉には薬効があり、自らの傷をその葉を食べることで癒すという。
背中に生えた樹の葉がほとんどなく、枯れかけているように見えるのが気になるが、この種の特性が引っかかった男が今にも斬りかからんとするメンバーを止めた。
*ちょっとそこらに用を足しに行ってくるよ
なんともヘタな嘘をつき一行は揃ってその場を離れ作戦会議となった。
薬を渡すことで信用を得つつ、その裏で病気を流行らせていたのではないか。
それにしては、この種の背中の樹が持つ効果が気になる。
倒してしまおう…などなど色々な意見が飛び交う。
そんな中ひとつの言葉があがった。
*こいつの背中、枯れかかってるんだろう? 少しかわいそうじゃないか?
この一言で冒険者達の心のベクトルが一気に変わったのだ。
最後の頼み
冒険者達は白き魔女のもとへと戻り、鏡を見せる。
そして、どういうことなのかを問いただす。
その鏡…
どこで手に入れたのかは知りませんが、もう隠しても仕方ありませんね。
私の本当の姿は見ての通りです。
私は世界樹に連なる竜神の眷属。
ふとした時にあの村落の病を知るに至りました。
放っておいては大変なことになる。
だから助けたいと思ったのです。
私の背中に生える樹の葉は薬となります。
それを使って薬を作っていたのです。
ですが、見ての通り、この葉も尽きかけており、私の寿命ももうすぐです。
その前に、貴方たちに最後のお願いがあります。
もしも、私のことを信じてくれるなら…ですが。
古の竜が語る話はこうだった。
冒険者達が会った黒の魔女こそが奇病の元凶であること。
その目的はわからないが、このままでは私の命が尽きる方が早くいずれはあの魔女の思惑通りになってしまうだろうこと。
その大惨事を止めるためには彼女を倒さなくてはならない。
冒険者達に黒の魔女を討伐することをお願いしたいと言うのだ。
その間に、竜は最後の薬を用意しておくと言う。
冒険者達の心には一つの言葉が浮かんでいた。
(騙された)
今度のこれは黒の魔女に向けられたものである。
白き魔女に化けていた竜の言葉を疑う者は誰もいなかった。
その最後の願いを受け、冒険者達は向かう。
ひとつの大きな戦いへ…
~つづく~