名もなき村落再び
人助けの一環と素直に信じる者、やはり怪しいと疑念を持つ者。
冒険者は様々な思いを胸に、それぞれがザックに詰めるだけの薬を詰め再びあの村落へとやってきた。
彼らと一度会っている村人たちは感謝の意を示し、薬を受け取る。
が、中には一行のことをはじめて見る者もいる。
薬を配って歩いていると村のはずれの方に住んでいる男に色々尋ねられることとなった。
あんたらは?
ふーん、そうだったんだなや。
で、薬をくれた魔女っていったいどの魔女だべ?
彼はよく出かけるらしく、噂の「白い魔女」については一度もまだ見たことがないという。
しかしながら、彼は村落の裏手を流れる川の上流へ魚釣りに出掛けた際、見かけたという。
トンガリ帽子にローブ、そして大ぶりの杖を持つ…さながら魔女と呼ぶに相応しい姿の人影が上流にある洞くつに出入りする様子を…
この話を聞いた冒険者達はこう考えた。
もしかしたら、あのエゼソル峡谷の小屋で会った魔女と同一人物なのではないか?
そして、それぞれの中でひとつの疑念が高まっていった。
上流の洞くつ
川に沿って流れを遡るように進んでいくと確かにそれは存在した。
崖の下にぽっかりと口を開けた洞窟が。
(こんなところに人なんて住んでいるのだろうか?)
誰もがそう疑っていた。
しかし、中に入ってみると所々に設置されたかがり火、その配置の規則性など
ここに何者かが住んでいるであろうことを確かに物語っていた。
極めつけは最奥にあったやけに頑丈な扉である。
あら?
こんなところにお客さんなんて珍しいわね…
貴方たちは何者かしら?
おそるおそる扉を開けて中に入った冒険者を待っていたのは一人の女性だった。
風貌は…確かに村の男が言っていたとおりに魔女のように見える。しかし、先の小屋で会った魔女とは異なり漆黒の衣装に身を包んでいる。
*俺たちはただの冒険者だ。
*近くの村で洞くつの噂を聞いてね。
*それと魔女の噂をね…私たち、他にも魔女に会ってるんだけど…
慎重に会話を切り出す者、そしてダイレクトに聞きたいことを言う者。
冒険者達は三者三様に口を開いた。
さすがにダイレクトすぎる発言には他のメンバーは顔をしかめたようだが…
ふーん、こんなところまで来るのは冒険者か…
隠れ家を求めた盗賊の類か…どっちかでしょうしね。
貴方たちがどっちでも差し支えはないのだけど。
白い魔女ね…まあ、知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない。
そんなところかしら。
いきなり核心を突く切り出しをしたメンバーにハラハラしたが、黒の魔女は別段態度を変える風でもなく、穏やかな口調で話をし出したので冒険者達はほっと胸をなでおろした。
彼女の話を信じるならば、ここにいる魔物などから採れる素材を用いて錬金術の研究などをしているらしい。
村の病気については当然近いので状況は知っている。
しかし、自分ではどうにも手出しができるものではないので傍観を決め込んでいるということだ。
色々と語ってはくれたものの、白い魔女についてはなんともはぐらかされた感じである。
真実を映す鏡
黒の魔女は先だって会った白き魔女とは別人であった。
そして白き魔女については別段目ぼしい情報も得られず、どうしたものかと思案をする冒険者達に黒の魔女は提案を持ちかける。
ねえ、貴方たち。
人助けのつもりなのか好奇心だけなのか、功名心か理由は聞かないわ。
だけど、貴方たちはこの地方で流行り出している奇病に関心がある。
そして…白き魔女についても気にかかるものを持っている。
何より面識がある。
あまり関わらない方がいいわ…と言いたいところだけど、言って聞くような人たちには見えないわね。
もっと調べてみるつもりなら…この鏡を貸してあげるわ。
真実を映し出すと言われている鏡よ。
きっと役に立つわ。
黒の魔女が差し出した鏡。
それは「ラーの鏡」と呼ばれる代物らしい。
アストルティアではおとぎ話か何かでしか見ることのできない伝説の鏡。
それが今、目の前に差し出されたことに冒険者達は興奮を隠せない様子だった。
この鏡が本物なのか偽物なのかはわからない。
でも、これでまた一歩踏み出せる。
そう思った彼らはその鏡を手に取るのだった。
~つづく~