オルフェア地方~再び~
レンドアの酒場にて依頼書を貼りだしてよりしばらく、これと言った知らせもなくあさげはぼんやりとした日々を過ごしていた。
そんな時にとある人物からの一通の手紙が届いた。
「オカラシ」と名乗るその人物はプクリポ族のルポライターらしく、ここのところ亜人からの依頼でほうぼう歩いていた時に気になる物を見つけたらしい。
それがオルフェア地方にあるというのだ。
君は亜人を探しているのだろう?
それならオルフェア地方にある「ダンダダ団のアジト」に行ってみるといい。
求めているものかどうかはわからないけど、面白いものが見れると思うよ!!
BGM:チップチューン(耳コピ)版「果てしなき世界」
「ダンダダ団」となんか噛みそうな名前の自称盗賊団のアジトはオルフェアの町から遠くない。
先日訪れたオルファの丘へ向かう途中にそれはある。
しかし、あさげは以前もそこを訪れたことがあった。
「はて? 亜人獣人の類に関するものなぞあったかのう…?
あの時は、カンダタとかいう大男に振り回されたからの…見落としがあったのやもしれんな。」
怪傑ウルフに結びつこうが関係がなかろうが構わなかった。
知らないことがあり、それを知ること、単純にそのことが心地よく楽しかった。
だから、迷うことなく向かったのだ。
オルフェアの町にあるサーカス団のテントがはっきりと見える光の河の対岸にアジトはある。
こんなところに井戸が?
と思ったら、それがそうだ。
そもそも、あさげは思うのだが、この世界で井戸がまともに井戸として機能していることは少なく、それならば何のために井戸があるのかと言うことだ。
大抵は中に何やら人だったりモンスターが住んでいる。
「我はこの井戸の中に降りるのは好きではないのじゃがのう…」
背中の羽を必死に羽ばたかせれば多少は落下のショックは和らげられるかもしれないと、羽をこれ以上ないくらいに動かして井戸へと飛び込む。
ちなみに、エルフ族はかつて風を操り、自由に天空を駆けることも可能だったらしいが…
今やその羽は退化し、必死に羽ばたいたところで気休めにもならない。
うちわがわりには使えるだろうか…?
ダンダダ団のアジトにて
いつ来ても井戸の中は快適とは思えない。
枯れかかっているとは言っても井戸。
地下である。
夏場などは涼しいのかもしれないが、暗い。
そして空気の流れがあまり良くない。あさげはそこが嫌いだった。
このようなところに好んで住まう輩が信じられなかった。
BGM:チップチューン(耳コピ)版「ほこら」
中に入り狭い通路を進んでいくと目に入るのがこの男。
プクリポゆえに年齢不詳ではあるが、この自称盗賊団のリーダー「バロ」である。
一応、カンダタ事件で一通り世話に?
いやいや、顔見知りであるので挨拶がてらに雑談をするが、今回の目的は彼らと話すことではない。
ここで見られる亜人に関わるなんとやらだ。
あさげが見渡すと気になる物はいくつかあった…
まず、床にも同じものが見られるが、見上げて目立つのがダンダダ団の団旗である。
ここには謎の動物がシンボルとして描かれている。
妙な口ひげをたくわえた…猫のような腕を持つ動物なのか獣人なのか…
ただ肉球のパターンと指の数から判断するに猫の類でないことは容易に想像できる。
だが、これはあくまでシンボルマーク。
そしてダンダダ団の名前は伝説の大盗賊「カンダタ」にあやかってつけた名前であるから然程重要な意味があるデザインではなさそうだ。
もうひとつ…いや、厳密にはふたつ…あさげには気になるものが目に入っていた。
まずは謎の骨格標本。
角がついた動物の骨格に…2本のどこかの部位の骨が組み合わさって飾られている。
この対になる2本の骨はよく見ると、先ほどの団旗に描かれた珍妙な動物の手とよく似ている。
そう考えれば、あの動物の頭にあるのが耳ではなく角かもしれないと思え、見直してみるとその動物が実際に存在していて、その骨格であることがうかがえてくるのだ。
しかし、あさげの記憶にはそのような動物は存在しない…またひとつ調べたいことが増えてしまった。
そして3つめは…
そして…幽霊の正体見たり枯れ尾花
この立派な額縁におさめられた肖像画である。
おそらく、「オカラシ」というルポライターが言っていたのはこれのことだろう。
ふむ、なるほどのう…
確かに面白い。面白い絵じゃ。
じゃが、残念ながらこれは亜人でも獣人でもないの。
ちょっと変わっておるから勘違いしてしまうのも無理ないがのう。
レンダーシアの人間族から見たらデミヒューマンの類と言えるが、それを言えばあさげ達エルフ族もオーグリード大陸のオーガ族、ウェナ諸島のウェディ族などなど全て亜人と言えるのだ。
そう、これは一見変わってるようにみえるから勘違いしてしまうが…
勘の良い方ならわかるであろう、「プクリポ」族なのだ。
よく見てほしい、実によくプクリポ族の特徴をとらえているのである。
肖像画には足まで入っていないのでわかりにくいが体型はプクリポそのもの。
そして身体的特徴の耳のつきかただが、一見通常のプクリポとは異なる形の耳をしているように見えて、これは肩まで覆う動物の毛皮で作られたフードを被っているのである。
おそらく描かれた人物は丸耳のプクリポであろう。
口ひげは…本物か描いたものかまでは肖像画からは判断つかない。
おそらくはこれ…どこからかの盗品であろう。
そして彼らの活動範囲は非常に狭い。
それゆえにどこかの悪趣味なプクリポの肖像画である可能性が非常に高い。
何より、肖像画を描かせたりするような文化を持つ種族が人間を含めた6種族外にいるならば彼らはすでにアストルティアの中でもう一つの大きな勢力となっているだろう。
つまり、幽霊の正体見たり枯れ尾花ということだ。
しかし、何も無駄ではない、そもそも「怪傑ウルフ」が獣人族であるという保証がないのだ。
であれば、この不敵な面構えをしたいかにもどこかの裏社会を歩いてそうなプクリポ。
この人物が実は「怪傑ウルフ」である可能性だってじゅうぶんにあるわけだ。
そう、あさげは「怪傑ウルフ」の正体について獣人族である可能性も一応視野に残しつつ、新たな可能性を見出し次に訪れるべき場所を既に決めていたのだった。
~次回 ヒーローに会いたい!第三話 「希望は常に心の中に」~