港町レンドア。
レンダーシア大陸へ玄関口となるこの都市には冒険者達へ仕事の斡旋を行うギルドがあった。
モンスター討伐の依頼を扱うことが多いため、便宜上「討伐依頼本部」となっているが、実は失せもの探しから浮気調査まで持ち込まれる依頼は様々だ。
今日も冒険者たちは酒場併設のこの場に集い、お金や名声を得られる仕事がないか掲示板に向かうのだ。
掲示板に貼り出された数々の依頼書を眺め、吟味する冒険者の一団。
同じ冒険者ギルドに所属するメンバーたち…とでも言ったところだろうか?
「この依頼の方が報酬が高い!」
「いや、この方が名前が売れそうだ!!」
「こっちの方が面白そうよ?」
個人個人の価値観から色々な意見が飛び出ているようだが、ひとつの依頼に皆の目が集まった。
とあるプクリポの貴族からの依頼である。(大まかな流れは前回を参照ください)
内容は採取系。
リンクル地方の奥地より「あるもの」を持ち帰って欲しい。
ということだった。
詳細は現地で話すとのことで、それ以上は何も書いていない。
いささか胡散臭いとは感じながらも、貴族からの依頼である。
一般の冒険者にとってはこのような依頼をこなせば名声も大きく上がり、キーエンブレムに一歩近づくというものである。
大きな期待を胸に、冒険者たちは依頼主の館へと向かったのだ。
プクランド大陸オルフェアの町から南西、リンクル地方にあるお屋敷に住む貴族が今回の依頼主です。
緑に囲まれた湖畔に建つ素敵なお屋敷。
きっと住んでる方も…と様々な想像を膨らませながら冒険者たちは現地へ向かいます。
屋敷の中で冒険者達を出迎えてくれたのは困り顔の執事さんでした。
見た目から察するに執事長でしょうか。
困り果ててしまい、藁にもすがる思いで依頼を出したようで、冒険者達の到着を見るや、大喜びで矢継ぎばやに事の次第を話し始めます。
依頼の内容は、どうやらこの屋敷のお嬢様に関することのようです。
よくぞいらしてくださった!!
待っておりましたぞ!
頼みと言うのは他でもない、この家のお嬢様のことでございます。
お嬢様ときたらお菓子が大好きでございましてな…寝ても覚めてもお菓子ばかり食べていらっしゃるのです。
しかも、他のことにはあまり興味がないらしく、体もロクに動かさんで…ま、まあ、ご想像におまかせしますが、いささか太りすぎてしまいましてな…
その…私の口から言うのは気が引けまするが、まるでトンブレロのようになってしまわれたのでございます。
これでは公の場に出る際など恥ずかしいとのご当主様、そしてご婦人様の想い、そして高価な服を仕立ててもすぐに着れなくなってしまい当家のお財布事情も圧迫しだしております。
ゆえに、ダイエットをしていただこうとご両親様も使用人一同も努力したのですが、努力もむなしくお嬢様を動かすことはできず、ますますお太りになる一方でございました。
そんな折…当家に立ち寄られた旅の商人からある噂を聞いたのでございます…
旅の商人が言うには、このリンクル地方の奥地に「不思議な水」が湧き出す泉があって、その水はのど越しが良く、爽やかな気分になり、旅の途中のリフレッシュには最適だが若干問題があるという。
その問題とは、その水の刺激のせいか、飲んだ後しばらくの間は甘いものを食べた時に甘さを感じず、かわりにとんでもない苦味を味わうというのです。
その副作用的な効果は一日も持続しないらしいので、わかってしまえばその間甘いものを避ければよいだけなので何ということもないのですが、はじめての時には何か毒でも飲んだかと思ってしまうくらいの苦味を味わい当分は甘いものを見たくなくなるくらいだそうです。
そんな旅の商人の話を聞いた当主様はこれを食事の折にでも娘に与えれば甘いものを控えるようになり、少しは痩せるのではないかと考えたのです。
ですが、リンクル地方の奥地には手ごわい魔物や猛獣が住んでいてとても屋敷の人達では取りに行くことなんてできる話ではありませんでした。
そこで、藁にもすがる思いでレンドアのギルドに依頼を届けたということだったのです。
話を聞いた冒険者達は早速リンクル地方の奥地にあるという泉を探しに出かけました。
確かにこの地方の奥地には手ごわい魔物や野獣が多いのですが、屋敷からは然程遠いわけでもなく、いくら手ごわいとは言っても旅慣れた面々から見ればそこまで危険とは思えなかったので、この依頼を受けたことはラッキーと誰もが考えていました。
そう、ある時までは…
今回の仕事は気楽でいいな~♪
そんな感じで半ばピクニック気分で目的地へと向かう冒険者たちを物陰からこっそりと見ている人影がありました。
なんかおもちろそうな人たちがオウチにきてたわねネ!!
おとうたまのおきゃくたまにちてわめずらしいカッコしてたし、ワクワクのヨカンよ!
これはおもちろそうネ!
ワタチのアンテナにデンパがビビっときたわヨ♪
なんと、依頼主の娘…噂のお嬢様がこっそりと見ていたのです!
食べること…とりわけお菓子以外には興味を示さないというお嬢様。
普段見ることのない奇妙な(お嬢様的に)格好の冒険者たちに興味津々のご様子です。
体を動かすことは嫌い…だと思われていましたが、単純に興味のわかないことには見向きもしない性格なだけのようです。
興味を持ってしまえばそれに向ける情熱は…お菓子を見てもわかるとおり、すさまじいものがあるようです。
困ったことに、コソコソと冒険者たちの後を見つからないように隠れながらついて行ってしまいました!
手ごわい魔物たちが住む奥地まではまだ距離があるとはいってもここは野外。
冒険者たちにとっては大したことのない魔物や野獣も花よ蝶よと育てられたプクリポのお嬢様にとってはとんでもなく危険な相手です。
本当に大丈夫なのでしょうか?
平穏無事に終わりそうだったこの依頼、一波乱ありそうです。
冒険者たちと、お嬢様の運命やいかに…
~つづく~